30日はトヨタUDサブミーティングの三回目に出席するため、お台場はパレットタウンにあるユニバーサルデザインショーケースにいきました。
11月8日にファイナルプレゼンテーションが迫り、最後の調整となっています。
ワークショップではあるのですが、一応結果に順位が付きます。
そこで、見事一位になれれば特典があるわけでみんな頑張って追い込みの最中です。
昨日は僕がプレゼンテーションをしたのですが、なんとか無事に乗り切りホッとしている最中です。
先生方に質問されたときにパッと相手の望む答えが出せる。というのは、毎日のようにフィールドワークに出て観察を続けたおかげだなと痛感しました。
デザインとは観察から始まると前に言われたことがあるのですが、なるほど、実際に体験してみるとよくわかりますね。
講師の皆さんからは概ね良い評価を得られたように思います。
各チームのプレゼンテーションが終わると、今回の運営をしてくださっているトライッポッドデザインの中川さんから「たった一人のためのデザイン」という講義がありました。
プレゼンの中にもその単語が出てきたのですが、ペルソナを使ったUDのアプローチです。
タイトルにもあるとおり、たった一人のペルソナのためのデザインを追及することで、そのほかの人へも使いやすいものが出てくるのだそうです。
UDを実践していくにあたって、重要になってくるのがどれだけ暮らしの実態に迫ったかということです。
そういった意味でユーザーの飾り気のない生活を観察するというこはかなり大きなウェイトになってきます。
また、フィールドワークなどで発見した気づきですが、
一人を深堀することで気づきが進化するのだそうです。
この一文はペルソナを使ったデザイン提案をよく表していると僕は感じました。
ペルソナは足かせでなく、気づきを進化させるための情報でもあるのだと思います。
誰のためにデザインするかということを明確にするのがペルソナ手法であるといわれていますが、
ユーザーを明確にしたことで更なる発見や気づきの進化があるわけですね。
ここでは事例として脳性マヒによって指先がうまく使えない女性をずっとつきっきりで(コンテキスチュアルインクワイアリー法ですね)取材したときのことを出していました。
密着取材を続けていくうちに、その女性の本音は以下の三つであることがわかったそうです。
1.本当にかっこいい下着がほしい。
2.良い歯ブラシがほしい。
3.使いやすいお箸がほしい。
この中から3番の使いやすいお箸をデザインすることになりました。
ここでまず彼女と一緒に生活し、観察に入ります。
彼女は脳性マヒの影響で、右手の指を数本しか動かすことができません。
そんな状態でも、お箸を使って食事をしているそうです(使いこなすのに3年かかったそうです)
そんな彼女が今のお箸にもっている不満は以下のようなことでした。
・丸くないこと(机の下に転がってしまってはそこでおしまいだから)
・四角い箸を使っているが角が食い込んで指に負担がかかること(痛くなってしまう)
最初、デザイナーがバネがついたような食べることをアシストするお箸を提案したところ、彼女に即却下されたそうです。
・せっかく三年もかけてお箸を使えるようになったのに、バネなんかついているのはやだ。
・お箸を使っている自分を格好よく見せてくれるものでなかったら使いたくない。
さらに彼女はこういったそうです。
「プロダクトデザイナーはすぐにバネとかついたものを作りたがる」
確かに、障害を持つ方のためのデザインと言うとそういったものを想像してしまいがちです。
そういったものが必要な人もいるとは思うのですが、何でもかんでもそういったスタンスで作ろうとするのがデザイナーのエゴ(決め付け)なのかなと思いました。
そのデザイナーの考えの中に実際に使うユーザーが決まっていない場合が多いのです。
だけど、ユーザーが明確であるから、そういったものにならなかった。
実際の本人からそれが却下されたということなのだと思います。
また、彼女に密着取材する上で、彼女のお箸の使い方が見えてきたそうです。
中でも興味深かったのが、挟むというタスクを立てて彼女にお箸を使ってもらっているときに、実際は行動の三割程度は刺しているということがわかったそうです。
ユーザーは自分の言葉や概念で物事を定義していると中川さんはおっしゃっていました。
ユーザーの中の定義と自分の中の定義が一緒であるという前提を無くさなければいけない。
ユーザーに対するヒアリングは大切ですが、こういった意識間のずれというものがあるので、そこを注意して情報を扱わないと大きな勘違いを起こしたままデザインをしてしまいそうです。
このようにプロトタイプの作成と評価を繰り返した結果できたお箸がこちらだそうです。
指が当たる部分がえぐれているデザインの箸です。
写真を見せてもらったのですが実際に協力者の方に渡したものはアクリル製の透明なものできれいでした。その方はいろんなところにもって行って見せびらかしてつかっているとか。
このお箸、使ってみたら自分たちでも使いやすかったので、提案してみたところ今ではJALの国際線のファーストクラスに使われているのだそうです。
ここで思います。
もし、最初に提案したバネつきのお箸だったなら、自分たちにも使いやすかったのでしょうか。
JALのファーストクラスに採用されていたでしょうか。
ユニバーサルデザインとは、魔法のように万能なイメージが先行して広まってしまいましたが、こういった地道な活動をもとに、日常の中にさりげなく存在していなければいけないのではないかと僕は思います。
使いやすさだけでなく、メンタルな、エモーショナルな部分をどう詰めていくか、実際の協力者(ペルソナ)とどうかかわっていくか。いろいろと勉強させられた一日でした。